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隣の晩ごはんと同じくらいに、他人の本棚は気になる。

以前と比べて甘い予算で本を買うようになって、
自然と手持ちの本を読み返す機会が減ったことは、少しさみしい。
整理を始めた本棚の奥の方から、何度も何度も手に取った文庫本が出てきて、
旧友に会ったような気持ちになった。

先日、FMヨコハマの本のコーナーにコメントした。
カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」を読んだ感想を、
内容はほとんど分からなかったけれど退屈しなかったと書いた。

すると、書籍を紹介してくれたアナウンサーが返信をくれた。
分からない=面白くないと言う人がいるけれど、
私のような感想を持つ人もいて、嬉しかったと書かれていた。

「忘れられた巨人」に関しては、6世紀のブリテン島が舞台で、
歴史的な知識も乏しく、アーサー王と書かれてもピンこない。
でも、ぴんと糸が張りつめたような緊張感が伝わってきて、
音も色も抑えられた、静かな映画を見ているようだった。

いうならば私は、物語の雰囲気を味わいに行っていた。
ふたを上げると鳴り始めるオルゴール箱のように、
本の世界は開かれる前も表紙の内側に存在していて、
ページを繰れば私を迎え入れてくれた。

そのあとは、少し前に直木賞を取った「流」を読んだ。
対照的にアクティブな、濃い色合いをまとった物語だった。
文句なしに面白かった。

いまは、女優の杏ちゃんのエッセイ「杏のふむふむ」を開いている。
内容が軽めの、でもしっかり書かれた、きれいな文章が読みたい。
そう思って本棚から選んだ。
気分や状況によって読みたい本を替えられるなんて、本当に恵まれている。

今年は、小学校の図書室ボランティアに参加している。
破れたページを修繕したり、文字が薄れた背表紙にテプラを貼ったり、
図書室の飾りつけをしたりする。

「修繕に回ってくるのは、人気のある本だから、早く棚に返してあげたいんです」
司書さんの気持ちがこめられた言葉に、感じ入った。

ときどき、図書室の本棚から、自分が子どもの頃に親しんだ物語たちが
「やあ久しぶり」と挨拶をしてきて、「まあ元気だった?」と
胸の奥が浮き立つような感覚とともに、手を伸ばしたくなる。