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電話口のむこうから届いた、
友人のお母さんの言葉が理解できなかった。
バラバラになったひらがなが宙を舞うように思えた。

連絡が取れない時点で怖い可能性も心に浮かんだから、
台詞の意味が落ちてくる時間を引き延ばしたかったのかも知れない。
「もう長くないんです」。


ひとり 病室のベッドで眠る彼女のそばにいて、
少し話しかけて、顔にかかる髪をはらった。
ぼけっと座っていても芸が無いし、歌でも歌おうかと考えた。

でも、彼女の聴きたい音楽が分からなかった。
私の贈りたい歌は彼女が教えてくれたキリンジの曲だけれど、
寂しい歌だし、そもそも彼女が求める歌とも思えない。

何が欲しいのか したいのか、誰と会っておきたいのか。
彼女の本当の望みが分からない。
大切な友人に対して、私は無力すぎた。

彼女が一つ目の大きな病気になったとき、
私は「何をして欲しいか」と質問し、
彼女は「変わらないでいて欲しい」と答えた。

今度も、これからも そうしよう。
それ以外にできることが思いつかない。
午後から大嵐の予報が出ていた昨日、息子の入園式があった。
息子の隣に座る役は夫に任せて、
娘を抱っこしながら体育館の壁際に立って式を見守った。

遠くから息子に話しかける夫の横顔を眺めて、
「彼がお父さんとは、面白いなあ」と思った。

夫は20代の終わりに大病をして、結婚の縁を一度 逃している。
でも、今では立派な2児の父の表情をしている。
人生は分からないものだ。


息子がお世話になる先生たちの自己紹介もあった。
子供相手に慣れた独特の話し方を聞きながら、
幼稚園の先生だった私の姉を思い出した。

私は これから初めて、先生に対して「保護者」や「親」として接する。
さして成長していない自分が、保護者面しちゃうのも面白い。
私は「トモダチ親子」という関係は嫌なので、縦の線はしっかり築きたい。
でも内心では、どこかくすぐったさを感じ続けるのかも知れない。


なんとか天気はもってくれて、無事に式は済んだ。
真新しい名札をつけた息子を連れて帰り、ホッと一息つけた。
準備が足りていなかった部分を補って、月曜日からの新生活に備えよう。