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電話口のむこうから届いた、
友人のお母さんの言葉が理解できなかった。
バラバラになったひらがなが宙を舞うように思えた。

連絡が取れない時点で怖い可能性も心に浮かんだから、
台詞の意味が落ちてくる時間を引き延ばしたかったのかも知れない。
「もう長くないんです」。


ひとり 病室のベッドで眠る彼女のそばにいて、
少し話しかけて、顔にかかる髪をはらった。
ぼけっと座っていても芸が無いし、歌でも歌おうかと考えた。

でも、彼女の聴きたい音楽が分からなかった。
私の贈りたい歌は彼女が教えてくれたキリンジの曲だけれど、
寂しい歌だし、そもそも彼女が求める歌とも思えない。

何が欲しいのか したいのか、誰と会っておきたいのか。
彼女の本当の望みが分からない。
大切な友人に対して、私は無力すぎた。

彼女が一つ目の大きな病気になったとき、
私は「何をして欲しいか」と質問し、
彼女は「変わらないでいて欲しい」と答えた。

今度も、これからも そうしよう。
それ以外にできることが思いつかない。